割り箸論争の今昔

10年前の知識は役に立たないといわれる。「とくに医療分野は日進月歩だ」といえば聞こえはよいが、要するに生活習慣病に対する決定版といえる治療法が確立しておらず、試行錯誤を繰り返しているというのが現状である。
社会問題も似たり寄ったりだ。問題の発見→対策→解決→新たな問題の発生
と常に動いているので、生半可な知識ではコミットが難しい。
昔、1980年代に、割り箸論争があった。
割り箸は使い捨て商品の代表格であり、「木」でできていることが一見してわかり、使用時間も短いことから、大量消費・大量廃棄の象徴、 森林破壊の象徴と考えられ、MY箸ブームまで起きた。一方で、割り箸擁護論も現れ急速に支持者を獲得したため、割り箸森林破壊論は分が悪くなり、一時影を潜めてしまっていた。

割り箸の材料は間伐材である。間伐材は樹木の成長のために間引きした材木であるから、未成熟であるため柔らかくて建材にはならないが、割り箸には最適である。
切り倒した間伐材を有効活用しないで森の中に放置していると、森林が荒れてきて、それこそ大問題である。割り箸を使えば森林保護になるのである。

このように言われて10年前までは割り箸擁護論に軍配が上がっていた。
ところが、ここ数年の論調は、「割り箸は森林破壊の元凶であり、日本の責任は免れない」という意見が主流を占めているようなのである。

中国産割りばし、5割値上げ要求

しかし、割り箸の輸入の9割が中国産ってはじめて知りました。割り箸って、「他の用途の木材の余りカスで作ってるので、環境破壊にはつながらないもの」と思っていたのですが、中国産の割り箸は伐採して割り箸にしており、ほとんど植林も行っていないそうです。おそろしや。。。

参考:割り箸から見た環境問題
http://www.sanshiro.ne.jp/activity/99/k01/6_18prs1.htm

日本国内で消費されている割り箸は240億膳で、うち96%が輸入割り箸で、そのほとんどが中国産である。中国のやり方というのが、間伐材なんか関係なしに、森林をとにかく丸裸にして、割り箸を作るというものなのだそうである。日本人が無自覚に割り箸を消費することは、そういう中国の無自覚な森林破壊に手を貸していることになる、というのだ。

どうしてこうなっているのかというと、日本はここ15年間でコンビニが増えて、大手3社で年間16億本の割り箸をサービスで提供するようになった。国産では供給が追いつかず、1本5円にもなる。商社が中国に作らせると1本2円以下。こうして、ほとんどが中国からの輸入品になったというのである。

中国で割り箸用として森林が皆伐され、それが日本に輸入されているのが本当の事実だとしたら、箸を作るためだけに外国の木を伐採しているわけで批判は当然といわざるをえない。

私はそれでも「割り箸には罪はない」と考えている。私の「生半可な知識」ではとても自信を持ったことはいえないが、純粋思考的にはいくつかの疑問を指摘することができる。

  1. 割り箸が中国の森林を破壊し尽くすはずがない。
    • 年間240億膳といってもたかが割り箸である。トン数に換算して考えれば、割り箸のせいで中国の森林の一部がハゲ山になったと言われるほど消費されているとは思えない。むしろ、対日批判の一材料として流されたものではないだろうか。
  2. 中国においても割り箸生産は資源の有効活用の側面があるはずである。
    • 国産の割り箸は端材や間伐材、低利用木でつくられてきた。人工林管理のために間引きする際に必ずでる間伐材や、 製材時に余分な部分として出される端材は他に利用方法がない。木材として価値が低く、価格は低い。日本国内で割り箸の需要があったとき、端材や間伐材、低利用木が使用されたのは、安いという経済的な理由であった。
    • この原理は中国にも当てはまるはずである。つまり「木材という利用価値のある資源のうち価値が低く、安い、あるいは建材として売れないものが割り箸になる」はずである。発展途上国が外貨獲得のため目先のビジネスで1次産品を乱獲することはありがちなことであるが、中国の森林皆伐は建材輸出が主目的で、その際に派生する端材や廃材、あるいは利用価値の低い木材が割り箸の材料にされていると断言できる。おそらく、割り箸になるのは皆伐材全体の数%であろう。
    • 「中国においても割り箸生産は資源の有効活用の側面があるはず」という推測にはもう一つ根拠がある。それは間伐材が「未成熟であるため柔らかくて建材にはならないが、割り箸には最適である」と言われていることだ。初期にはシラカバやヤナギなどの原生林を手っ取り早く皆伐して割り箸にしていたかもしれない。しかし中国もバカではない。林間事業・植林事業が進めば、間伐は絶対必要になってくる。そのときには日本の割り箸需要が、中国の森林保護の助けになっているはずである。

社会問題は動いている。動いているから10年前の知識では真実を語ることはできない。同じ理由で近年の事実だけに拘泥しても結論を間違えることがあるのである。