取扱注意: 過熱化する皇位継承問題

ネットでは皇室典範改悪阻止のスローガンがもてはやされたり、「女性天皇」にも反対といったスジ論が市民権を得る勢いのようだ。要するに、「旧皇族の皇族復帰」を唱える人たちは劣勢に立たされていて、その分、声だけが大きくなり、次第に原理原則主義に純化し、私のように穏健な思考で象徴天皇制の未来を案ずる意見は唾棄されていく。

これは国民意識から離反していくだけの危険なシグナルだ。皇室問題には徒党を組んで解決できるような問題は何一つない。ネットには、皇統譜を初めて見て、天皇が男系で続いてきた驚異に心服して、ぜがひでも男系を維持してもらわないと困る、などとお仕着せがましいことを言う人も大勢いる。皇室にかかるプレッシャーなどお構いなしだ。本来ならこうした不届き者から皇室をお守りするのが保守の役目であろう。
そもそも、皇位継承を論じるのならば、なぜ天皇なのか、自分にとって天皇は何なのかを熱く語ってほしい。私は常識ある保守のつもりだが、保守の中には、象徴天皇制を理解できず、現在の天皇皇后両陛下に失望の気持ちを表明する天皇主義者もいる。主義は色々だから復古主義でも、民族主義でもかまわないが、その主義は現在の天皇とも、これからの天皇とも無縁であり、当然大多数の国民とも無縁であるから、お気の毒というしかない。明治、大正、昭和から平成へと世の中は動き、大きく変わってきたが、変わることなく今上天皇皇后両陛下へと受け継がれてきた「日本の心」ともいうべき皇室の伝統がある。その伝統を継承していこうといえない保守主義とはまた皮肉なものだ。



皇位継承問題は蒸し返しになるのであまり論じたくないが、『少子化』は避けることができない問題である。お二人お生まれになるケースでは、曾孫の代で男系の皇子が8人になることも10万分の6の確率であるが、男系の皇子がゼロになる確率は約48%にもなる(数式が作れず、場合分けして計算してみた)。これは直系に男系子孫の継承を期待するにはあまりにも酷な数字である。
多産で解決できるというのは安易だ。一般には、女性の高学歴、晩婚化、社会進出意欲、といった傾向が少子化の原因となっているが、これらの傾向に皇室も無縁ではいられない(むしろ皇室のほうがこうした傾向が強まって行くとも考えられる)。
直系で男系子孫をという過大な期待を背負って結婚できる女性は今後なかなか現れない。直系に男子なき場合、「弟宮家の傍系に継承させるのが慣わし」というが、そもそも弟宮家がないことのほうが、常態になるかもしれないのである。「だから、旧皇族の方を皇族復帰させて、男系伝統の安定をはかるべし」というが、それと皇室の安定とはまた別問題なのだ。よく考えてみよう。皇室が何親等も離れた傍系に移ったことが何回あるか。2千年でたった3回である。それ以外は、なんとか直系で継承しようと何人もの側室を置いて努めてこられたのである。側室を廃止したということは、直系断絶という事態が今後は頻繁に起こることを覚悟しないといけない、傍系に移ってもすぐ断絶し、また次の傍系を求めざるをえない、ということが頻発するということを意味している。これでは、少しも皇室は安定せず、何の解決にもなっていない。そもそも旧皇族の復帰だけでは、断絶危機を避けられないという深刻な問題になっていると理解すべきである。


 旧皇族の方が皇位継承権を得たとしても、得たそのときから、男系子孫をという過大な期待を背負って結婚できる女性が現れるまで、独身を過ごすことになり、晩婚化、あるいは非婚化は避けられない。曾孫の代までの男系維持は困難を極めるであろうから、男系男子の皇族復帰を強く唱える諸君は、あとさきをよく考えずムードに酔っているだけなのか、あと百年だけもてばよいという考えなのであろう。


事態がここに至った以上、この際、女性天皇を一般化させ、長子優先で継承の安定を図るべしという「皇室典範に関する有識者会議」の報告書は、その意味で至極もっともなことであった。いわば皇室が、過去よりも柔軟に自由な裁量で、皇位継承をはかっていけるようにし、具体的なことは皇室におまかせしようという趣旨の改正案になったといえよう。
たしかに女性皇太子の配偶者問題は悩ましい問題である。しかし、それは世間がとやかくいうべきものではない。旧皇族のご子息に適任者がおられるなら、しかるべき打診もあるやも知れぬ。縁が生まれない場合は、何も旧皇族の方に限ったものでもない。天皇存在に正統性の仮装が必要だとすれば、最後の拠り所は「Y染色体でのつながり」というストリーになってくる。なぜなら、天皇の座を継ぐ立場でお生まれになる皇子(皇女)にあられては、たとえ、女系天皇だとしても、父方を通じて皇祖皇宗に結びついているような神話を御自ら必要とし、また国民に求められることがあろうかと思うからである。
したがって、男系継承を願う立場でありながら、「Y染色体の話」を無価値なものにしたがるのは犯罪的であり、1日も早く国民的承認を得ることが大事な『皇室典範の改正』を政治問題化して成立を遅らせることも、また犯罪的である。保守がとるべき態度は『皇室典範の改正』問題をやさしく解説して、これからの皇室への変わらぬ信頼を表明することである。


  • ここで一呼吸おいて書きます。私は12月になってから皇位継承問題に投稿してきました。自分の中での投稿基準は、あまり取り上げられていない問題(話題にはなっていても大事な問題がスポイルされていることもある)に投稿したい、納得のいく議論になるよう一石を投じたい、投稿することで、教えられることがあり、自分の意見が整理されていくような投稿にしていきたい、というものでした。だから、いま読み返すと強調点が変わったり、あるいはいったん撤回したほうがよいような意見もあります。こうした変遷は私にとって収穫であり、目的を半ば達成できたと感じています。また、いろんなサイトから学ぶこともできたことに感謝しています。
  • 一方で、専門家が書いていることに「何も付け加えることがない」のなら投稿の意味がないと思えるサイトも見かけました。「断固とした態度」はときにことの本質に気づかせるよい作用もありますが、皇室問題にあっては「心の中に土足で入ることがないように」気持ちを引き締めてかかることが大事であると、おのれの拙い投稿文に改めて反省しています。
  • また、賛成意見、反対意見を問わず、しっかりした自分の考えを過不足なく、ときにほのぼのと伝えている人も多く、とても参考になりました。もっと、はやく知っていれば私の投稿動機の半分は消失していたかもしれない記事を2つばかし挙げてみます。

皇位継承のニュースについて
優柔不断な皇室論 [ 皇室の話(2)]


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以下、コメント記事です。不具合で表示されない状態になっていましたので、ここに移しました。


◆匿名 『少子化が要因とするなら そもそも女系を認めたところで後継者がいないという事態も有り得ると思うのですが。
養子を解禁するというのも一つの手ではないでしょうか
(養子になる人が皇室に相応しいかはまた別問題ですが)』(2005/12/15 03:20)


◆tuki1gironn 『皇子、皇女いずれの直系でも可となれば、配偶者を得ることで倍々になっていくわけで、継承の困難性は解決されます。万が1の場合には、弟や妹の宮家傍系があるから現在の態勢でまったく心配の必要はないといってよいでしょう。
むしろ、宮家の数が増えすぎないように新たな合意形成が問われることになると思います。』(2005/12/15 07:55)


◆西田瓜太郎 『こんばんは。
情熱を持ちつつ、誠実に論じておられ、立派だと思いました。
また、見に来ます。』(2005/12/17 01:46)


◆tuki1gironn 『散らかしたサイトにお越しいただきコメントありがとうございます。
まだ考えが固まらないまま投稿しています。小休止後、これからも様々な方から影響を受けることになると思うので、自分の思考記録のつもりで書き散らかしていくつもりでいます。』(2005/12/17 11:50)


◆take 『長子優先だと、男系継承しようと思った場合、
愛子様世代の子供世代は旧皇族男子との結婚でしのいでも
孫の世代からが無理になるかと』(2005/12/22 21:32)


◆tuki1gironn 『ご指摘のとおりです。
私が以下、述べることは、いわば言わずもがななことなので、「実際問題としてどうか」という論争にするつもりはないことをお断りしておきます。
私は、男系男子と愛子様が結婚した場合、皇子様誕生時に皇室典範を再改正して皇位継承を長子優先から男子優先に変えればよい、もし、愛子様の子が皇女様だけなら、男系男子を配偶者にお選びしていただければお慶ばしい、という意見です(意見でした)。「男系男子」には旧皇族男子に限らない広義の含みを持たせてあります。


「意見でした」というのは、ご指摘を受けて再考した結果、皇子様誕生のときに皇室典範を再改正して男子優先に戻しても、直系男系継承の困難な問題をまた抱え込むことになるだけだ、ということに気づいたからです。
そこで私は長子優先を無条件に支持することにします。長子が皇子様なら民間の女性から配偶者をお選びいただいて、長子が皇女様なら配偶者は男系男子のなかからお選びになっていただけるとお慶ばしい、という考えに変わりはありません。たとえ変則形であっても私が男系継承に固執する理由はすでに述べております。しかし、天皇陛下が「男系継承」に依拠する必要がなくなったとご判断されるときが何れやってくると思います。そのときは私が男系継承に固執する理由もなくなります。もっとも、そのときの私はあの世ですけれど……。』(2005/12/22 23:18)